1000字小説『変身(モシャスじゃない)』

 ある朝、目が覚めると俺は毒イモムシに変わっていた。それも本物の毒イモムシじゃない。ドラクエ3に出てくるモンスターの毒イモムシにだ。
 昨夜は遅くまでドラクエ3をやっていた記憶がある。どうやら俺はテレビゲームの世界に入り込んでしまったらしい。
 通りかかった勇者が毒イモムシの俺に戦いを挑んできた。
「待て、俺は人間だ!」
「モシャスしているのか?」
「いや、気がついたら変身してたんだ。つーか、俺はこのゲームのプレイヤーなんだ」
「ゲーム……とはなんだ?」
 ゲームという単語がわからないらしい。ドラクエ3の世界の住人にも理解できる表現で言い換えないといけないみたいだ。
「格闘技場みたいなもんだ。俺から見れば、この世界は格闘技場で、あんたはそこに出場するモンスターなんだ」
「じゃあ、君はこの世界の住人じゃないと言うのか?」
「そうそう。俺は日本から来たんだ」
「ニホン?」
「日本じゃ通じないか。え〜と……ジパングだ」
「ジパングはこの世界にある国の名だが……」
「いや、この世界のジパングは俺から見れば格闘技場の中にあるジパングで、俺がいたジパングは格闘技場の外にあるジパングなんだ」
「君は何を言ってるんだ?」
 たしかに自分でも何を言ってるのかわからない。
「まあ、君が人間だということは信じよう。毒イモムシにしては口が達者すぎるからな。しかし君はいったい何者なんだ?」
「何者と言われても……動物園でカバを飼育するのが仕事だけど」
「ドウブツエン?」
「え〜と、動物が一箇所に集められている場所だよ。俺はそこでカバの飼育を担当してるんだ」
「カバ?」
 カバも言い換える必要があるみたいだ。ドラクエ3に出てくるカバといえば……。
「俺はバラモスを育ててるんだ」
「バラモスだと!?」
「あっ、いや、俺が言ってるのは無害なバラモスで──」
「無害なバラモスなどいない!」
「いや、本当だって! 俺が言ってるのはイオナズンもメラゾーマもバシルーラも使えなくて、スライムにすら何も命令できない、口を大きく開けて歯についた食べ物のカスを小鳥に食べさせてあげるような平和的なバラモスなんだ!」
「問答無用!」
 勇者のこん棒が俺の脳天を打ち砕いた。
 良い子のみんなはこんなことにならないように、ゲームのやりすぎにはくれぐれも注意しよう。

※ この作品は御茶林研究所の第2回茶林杯1000字小説コンテストに投稿したものです。

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